聖書からのメッセージの流れ

マルク・シャガール[Marc Chagall]

2024年5月31日(金)10:00をもちましてURLは下記の通り変更になります。
https://arisada.wjg.jp/france/message.html

①人間創造 [La création de l'homme]
神様が自分の身体に似せて、青年アダム [Adam] をつくり、まだ息もしていない状態のアダムを天使が抱え、天国 (エデンの園) に下りてきたところを描いている。 このテーマに膨らみを持たせるために、シャガールは周りに自分独自の世界を描いている。 下半分はシャガールが理想とする世界で、右下には恋人達が寄り添う姿や動物たちが平和に過ごしている様子が描かれている。 上半分はアダム誕生以降ユダヤ人達が辿る運命が描かれており、一番上の真ん中にはキリストが十字架にかけられているシーンが、その左にはモーゼが貰った十戒の石版などが描かれている。
シャガールはロシアで生まれたユダヤ人で、ロシア革命、第一次世界大戦、第二次世界大戦と三つの大きな戦争を経験している。 それ故、平和と愛を切望する画家であった。 (1941年、第二次世界大戦の勃発を受け、ナチスの迫害を避けてアメリカへ亡命したシャガールは、1947年にパリへ戻り、1950年にニースへ、さらにニースから近い鷲の巣村ヴァンスに移り住み、フランス国籍を取得している。)
②楽園 (エデンの園) [Le Paradis]
右の方に立っている二人が、アダムとイブ [Adam et Eve] 。 この二人を囲む様に、天使、花束、動物たちが平和に暮らしている様子が描かれている。 そこにはあらゆる種類の木があり、その中央には "命の木" と "善悪の知識の木" と呼ばれる2本の木があった。 よく見るとイブの左横に "禁断の善悪の知識の実*" を食べさせようとしている蛇が描かれている。 神様は二人に、ここにあるものは何でも食べて良いけれども、この木の実 (善悪の知識の実) だけは、食べてはいけないと言っていた。 しかし二人は蛇の誘惑に負け、"善悪の知識の実" をかじってしまう、そして神様は "命の木の実" をも食べることを恐れ、彼らに衣を与えると、2人を楽園から追放する。
"禁断の善悪の知識の実" (禁断の果実) はよく絵画などにリンゴとして描かれているが、『創世記』には何の果実であるかという記述はない。
③楽園からの追放 [Adam et Eve chassés du Paradis]
上にいる大きな天使が剣を持って右の方へアダムとイブ [Adam et Eve] を追い出しているシーンが描かれている。 上の楽園の絵では青と緑を基調にした調和のとれた色合いとなっているが、この天国からの追放では赤い鶏と黄色い大きな花束を描くことによって色の調和を崩し、天国からの追放という不穏な空気を表現している。 アダムとイブは聖書の中では一番最初の人類で、沢山の子供がいた中に、カインとアベルの弟で、三男のセトがいた。 そして、セトの子孫に箱舟で有名なノアがいた。
④ノアの箱舟 [Arche de Noé]
ノアの時代は世の中が大変乱れていた。 怒った神様は信仰心の厚いノアにだけに大きな箱舟を造り、その箱舟にノアの家族と、全ての動物の雌雄一対を乗せるように命じた。 その後、神様は40日間雨を降らし、箱船に乗っていなかった者達、全てを溺れさせた。 その後、150日間水の上を彷徨った箱舟は、アララト山の頂上に着くが、周りに陸地が見当たらない。 そこで乾いた土地を探すために、ノアは箱船の四角い窓からハトを放す。 窓の上の方が白く描かれているのは、ハトの行き先 (未来) に、希望があることを表している。 このハトは最終的にオリーブの小枝を銜えて戻って来た事から、洪水の終息を知る。 右の方に描かれた人々は安堵の表情を浮かべている。
⑤ノアと虹 [Noé et l'arc en ciel]
ノアの箱舟がアララト山上に漂着し、地上の水が完全に乾いた後、神様はノアに言われた。 「さあ、あなたもあなたの妻も皆一緒に箱舟から出なさい。 あなたと共に生き残った動物も一緒に連れ出し、地に群がり、地上で子を産み、増えるようにしなさい。 わたしは、今あなた達と、そして後に続く子孫達と、契約を立てる。 私があなた達と契約を立てたならば、二度と洪水によって地の生き物を全て滅ぼすことは決してない。」
 更に神様は言われた、「あなた達、ならびに共にいる全ての生き物と、私が立てる約束のしるしはこれである。 すなわち、私は雲の中に私の虹を置く。 これはわたしと大地の間に立てた約束のしるしとなる。 私が地の上に雲を湧き起こらせ、その中に虹が現れると私はそれを見て全ての生き物との間に立てた永遠の契約を心にとめる。」
 こうして神様は最初の虹を作り、約束を契った。
絵は、のんびり休息する平和なノアと対照的に逃げ惑う不幸なユダヤ人が描かれている。 逃げ回る群衆はロシアのユダヤ人迫害や、ナチスによるホロコーストを表している。 
⑥アブラハムと三人の天使 [Abraham et les trois anges]
アブラハムと妻サラの食卓に三人の天使が舞い降りてきたシーンが描かれている。 左手に立っている二人がアブラハムと妻のサラで、その上方にドアの開いている家が一軒描かれている。 これは二人が天使を歓迎していることを表している。 この二人には、かなりの高齢になるまで子供がいなかった。 そこへ天使がやって来て、「わたしは来年の今ごろ、必ずここにまた来ますが、そのころには、あなたの妻のサラに男の子が生まれているでしょう」 と預言をする 。 ですが、二人はかなりの高齢であったため、予言を信用せず笑っていた。 しかし1年後、本当に男の子が生まれ、イサクと名付ける。 (イサクはユダヤのヘブライ語で "彼は笑う" という意味)
⑦イサクの生贄 [Le sacrifice d'Isaac]
不妊の妻サラとの間に年老いてからもうけた愛すべき一人息子イサクを生贄に捧げるよう、彼が信じる神によって命じられた。 次の朝早く、アブラハムはロバに鞍を置き、献げ物に用いる薪を割り、二人の若者と息子イサクを連れ、神の命じられた所に向かって行った。 神が命じたモリヤの山を上るさなか、父子の間では燔祭 (はんさい)* についての短い会話が交わされている。 イサクは捧げ物の子羊がないことに戸惑うのだが、アブラハムは多くを語らなかった。 イサクは無抵抗のまま父に縛られ、祭壇の薪の上に載せられる。 アブラハムがイサクの上に刃物を振り上げた瞬間、天から神の御使いが現れてその行為を止めた。 アブラハムが周囲を見回したところ、茂みに角を絡ませた雄羊がいたので、彼はそれをイサクの代わりに神に捧げた。  絵では、薪の上に載せられたイサクに刃物を振り上げた瞬間、天使が現れてその行為を止めるシーンが描かれている。 左手に木があり、木の横に一人女性が描かれているのが、奥様のサラで、サラも懇願の叫びを上げている。 そして二人の願いが叶い、木の後ろに描かれている一頭の子羊を生贄にすることで、イサクの命は救われる。 (アブラハムが赤く描かれているのは、これから起きる事態を想像させるために、血と炎の色で表現している。)
この試練を乗り越えたことにより、アブラハムは模範的な信仰者としてユダヤ教徒、キリスト教徒、並びにイスラム教徒によって今日でも讃えられている。
燔祭 (はんさい) は、生贄の動物を祭壇上で焼き、神に捧げる儀式。 古代ユダヤ教において最も古く、かつ重要とされた儀式。
⑧ヤコブの夢 [Le songe de Jacob]
信仰の先祖とも言われるアブラハム。 そのアブラハムの孫ヤコブは、兄エサウとの諍いを避けるために父イサクと暮らしていた家を出てカナン(ベエルシバ)からハナンへと向かう途中、ルズという町である夢を見た。 夢では地上から天に達する一つのはしごがあり、その梯子を天使たちが上り下りしていた。 ヤコブはこの夢を見た後、まことに主がこの場所におられるのに、わたしは知らなかったと言い、神様に対する畏敬の念から、その場所をベテル (神の家という意味) と名づけた。 階段の隣で赤い服を着て夢見ているのがヤコブ。
⑨天使とヤコブの闘い [Jacob luttant avec l'ange]
兄エサウの怒りから叔父の許へ逃れていたイサクとリベカの次男ヤコブが、兄と和解するために妻ラケルと羊を連れ旅立った途中、ペヌエルの地の急流 (ヤボク) を渡ることを天使に禁じられ一晩中 (ヤコブと天使が) 格闘をおこなうことになり、最後にはヤコブが勝利し、天使からイスラエル (神の勝者、神の護る人の意) と名乗ることを許されたとされる逸話でイスラエル国名の由来でもある。
⑩モーセと燃える柴 [Moïse devant le buisson ardent]
モーゼはエジプトに生まれたユダヤ人。 当時エジプトではユダヤ人は奴隷の扱いを受けていた。 またモーゼが生まれる前にエジプトのファラオはこれから生まれてくるユダヤの男の子は全員殺すようにとの命令を出していた。 そこでモーゼが生まれたときに母親は大変心配し、始めの3ヶ月ぐらいは家の奥で静かに育てた。 しかし3ヶ月もたつと赤ちゃんの泣き声は段々大きくなり隠しきれなくなった。 そこで、い草で編んだ籠に赤ちゃんのモーゼを乗せナイル川に流してしまう。 これが王家の近くに辿り着き、そこに水浴びに来ていた王女様はこれを見つける。 すると側近達は、これはユダヤの男の子に間違いないから殺さなくてはいけないと言ったが、優しい王女様は赤ちゃんを殺すには忍びないと言って、密かに館に連れて帰り、自分の子供として育てる。 しかし成長するに従い色々な所から噂が入り、自分はユダヤの子であることに気づく。 ある日、燃える茂みの中から神に語り掛けられ、イスラエル人を約束の地 (聖書中では 「乳と蜜の流れる地」 と言われている現在のパレスチナ周辺) へと導く使命を受ける。 そこで王家を出てユダヤの民の所に戻り自分たちの聖書を探すためにエジプトを逃れる。 逃れる途中、行く手を紅海に阻まれ、絶体絶命の状況に陥るが、その時モーセが手に持っていた杖を振り上げると、海が二つに分かれ、ユダヤの民達は紅海を渡って向こう岸に辿り着くことが出来たが、後を追って紅海を渡ろうとしたファラオの軍勢は海に沈んだ。
絵では、右手の白い服を着た人がモーゼ、真ん中は燃える茂み、左手の縦に連なる道は、二つに分かれた紅海を渡るユダヤの人々と、それを追いかけるファラオの軍勢を描いている。
 
 ⑪十戒の石版 [Moïse recevant les tables de la loi]
エジプトを去って二か月ほど後に,イスラエル人たちはシナイ山にやって来る。 そこは,エホバが燃える柴の中からモーセに語ったのと同じ場所で、ホレブとも呼ばれている。 イスラエル人たちは、しばらくの間ここにとどまり、その間モーゼは神様と対話するために、シナイ山に登り40日間こもりきりになる。 山麓で待たされるイスラエル人の間から不平不満が出始め、右下に描かれているモーゼの兄 (アロン) に対して、矛先が向けられる。 そこで身の危険を感じたアロンは、民の苛立ちを押さえるために、自分たちが持っていた貴金属を集めて金の子牛を作り、祭壇に祀ってお祭りを始めてしまう。 しかし、ユダヤ教は神以外の偶像崇拝を禁止しているため、十戒を貰って下りてきたモーゼはこれを見て大変怒り十戒が刻まれた石板を割ってしまう。 そしてまた山に登り民の罪を謝り、再度十戒の石板を神から授かっているシーンが描かれている。 絵では、右下に、アロンが七つのロウソク立てのある燭台を持って描かれている。 この燭台は、ユダヤ教の祭りでよく使われ、七つは天地創造の7日間を表している。
1日目 暗闇がある中、神は光を作り、昼と夜が出来た。 2日目 神は空(天)をつくった。 3日目 神は大地を作り、海が生まれ、地に植物をはえさせた。 4日目 神は太陽と月と星をつくった。 5日目 神は魚と鳥をつくった。 6日目 神は獣と家畜をつくり、神に似せた人をつくった。 7日目 神は休んだ。
⑫岩を打つモーゼ [Moïse frappant le rocher]
エジプトを出てから40年目の最初の月 、人々は,水が見つからないので,モーゼに不平を言った。 『死んだほうがましだった。 どうして,あなたは私達をエジプトから,何も育たないこのひどい土地へ連れてきたのですか。 穀物もなければ,イチジクも,ブドウも、ザクロもない。 飲み水さえありません』。 モーゼとアロン幕屋へ祈りに行くと,エホバはモーゼに次のように言った。 『民を集めなさい。 そして彼らの前で,あの岩に向かって語りなさい。 人々と動物全部が飲めるだけの水がそこから出て来ます』。 それで,モーセは人々を集めて,『聞きなさい,神を信頼しない人達よ。 あなたがたは,アロン (モーゼの兄) と私にこの岩から水を出せと言うのか』 と言い、そして,岩を二度打つと,全ての人と動物が飲めるだけの水が岩から湧き出て来た。
絵の中で、モーゼの頭上を黄色で表現しているのは、神との対話を示唆している。


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